江戸懐石近茶流(きんさりゅう)は、「近茶料理」と呼ばれ、江戸時代、文化文政の頃から興ったといわれます。柳原家家伝の割烹道で、江戸爛熟期の文化を背景としたいろいろな料理の技法やしきたりが残されています。近茶料理は代々女手に継承されていましたが、先代に至って初めて男手に移されました。
その先代宗家柳原敏雄が家伝の懐石と包丁道を体系づけ、「近茶流」とし、現在は 柳原一成が宗家として継承・伝承しつづけています。
近茶流の大きな特徴として、一尾の魚をおろすのにあたり、一般では当今関西風にしたがって腹から裂きますが、近茶流では江戸魚河岸のしきたりに応じて、表身尊重のため背から包丁を入れます。また、かれいの一尾の盛り付けは裏側を表に頭を左に盛りつけるのが普通でしたが、 近茶流ではあるがままの自然の姿を尊 び、かれいそのままの姿で頭を右に盛るのがしきたりです。今ではこの盛り方が一般化しつつあります。
近茶流は確かな包丁さばき、季節感をふまえての材料の吟味、盛りつけの風情、器や膳組における様式美の表現に重きをおく、茶心を配した料理道です。
季節感は日本料理にとって非常に大切な要素です。材料を選ぶにあたっても、料理を盛りつける場合においても、その季節を無視して日本料理はなりたちません。
諸外国に比べて、四季のはっきりしているわが国では、生活のすべてが季節のうつろいに同調するよう習慣づけられ、日本的な芸術は、すべて季節感を基調 として生まれたものが多いのです。日本料理もその例外ではありません。
また、日本列島は世界でもまれにみる魚介類の宝庫で、滋味こまやかな海産物に恵まれています。一方、畑作物は季節の魚を迎えるかのように歩調を合わせて出回り、旬のものとの出会いとなります。
人は音楽によって愉しい回想にみちびかれたりしますが、料理も同じ要素を持っていて、人の世のよろこびや、もののあわれを盛り合わせたものはふと、心の琴線に触れることもあって、食べた後にも余韻が残ります。
日本料理にはたくさんのストーリーがあります。外国のものに囲まれている日常のなか、真の国際人であるためにも、まず自国の文化や料理を、歴史・歳時記を通して学び、尊びたいと思います。